|
語の並びは日本語とほぼ同じだが……
アイヌ語と日本語にはとてもよく似た面があって、アイヌ語の語順どおりに日本語訳をつけると、単語の並び方が日本語とほとんど同じになります。日本人にとって、アイヌ語は読みやすく、意味も理解しやすい言葉ですが、この2つの言語はかつて同じ仲間だったのでしょうか。単語の並び方からすると、かつて親戚
だったような気もしますが……。
クポン ヒ タ ランマ クシイェイェ
私・小さい とき に よく 私・病気する
|
カムイ(神)とアイヌ(人間)
「カムイ」というアイヌ語には「神」という意味が含まれています。ただし、この神は絶対的な力を持つ存在ではありません。カムイは、自然界のものであれ、人工的に作られたものであれ、人間がかなわないものや役立つ存在を指しています。
カムイはアイヌ(人間)と常に対等な関係にあり、人間と同じように過ちをおかす身近な存在で、互いにいつくしみ合うことによって世の中が成り立つ、とアイヌの人たちは考えたのです。
|
日本語にない人称接辞とは?
「クポン ヒ タ ランマ クシイェイェ」という例文での「クポン」は「私・小さい」、「クシイェイェ」は「私・病気する」という意味です。語頭の「ク」はどちらも「私」を指しますが、この語は独立して使用されることがなく、常に名詞や動詞に付けて用いられます。
この「ク」は「人称接辞」と呼ばれ、日本語にないものですが、なおかつ日本語の助詞「が」に相当する言葉もアイヌ語にはありません。
|
|
発音が日本語と似ている
アイヌ語をまったく話せない中学生がカタカナで書いたアイヌ語を朗読して、それをアイヌ語のできる人が聞いて、その意味の多くを理解したという実例がありますが、これは日本人ならアイヌ語を容易に発音できるという可能性を示しています。
ただし、日本語は「ン」を除いて、すべての音に母音を含んでいますが、アイヌ語ではイタクやコロのように子音で終わるものも多く、日本人には発音の難しい音がいくつかあります。
|
アイヌ語の中の日本語
アイヌ語には、古い日本語がたくさん紛れ込んでいます。たとえば「サンニョ」は算用のことで、この語はかつて「サンニョウ」と読まれていた古い日本語の発音がそのままアイヌ語に入った一例です。
このことから日本人とアイヌ民族の間で古くから交易をとおした交流があったことがうかがえます。 |
|
過去、未来を表わす動詞がない
英語には過去や未来の時制を表わす明確な形がありますが、アイヌ語には過去や未来を表わす動詞の変化がなく、そのことがアイヌ語の特色の1つになっています。とはいえ、日本語動詞も語根までは変化しません(行く、行った)。
アイヌ語も動詞の後ろにアを置いて過去を表わす方法があります。時制に関しては、アイヌ語は英語よりも日本語に近いと言えます。
|
日本語の中のアイヌ語
雑誌『ノンノ』の表題はアイヌ語の「花」の意味から付けられたものです。ノンノの原義は「良いもの」で、そこから「花」「おもちゃ」「母」などと意味が展開してきたと思われます。
歌手の“キロロ”というグループ名もアイヌ語です。キロロの原義は「力」ですが、ここから「楽しい」などの意味が生じています。音楽も楽しく、生きる力を与えてくれるものですね。
|
アイヌ語と古代日本語の色名
アイヌ語での色名の表現は、基本的に「シウニン」(黄)、「レタラ」(白)、「フレ」(赤)、「クンネ」(黒)の4つです。
このうちシウニンは青・緑・黄を表わす幅広い領域を持つ言葉ですが、古代日本語の「アオ」も、じつは青から黄までの幅広い範囲を示して、色のとらえ方の共通
性をうかがわせてくれます。なお、黒を表わすクンネの元はクルとネで、クル(影)は日本語のクロと関係がありそうです。
|
|
名詞の語形が変化する
アイヌ語の「手」を表わす言葉は「テク」ですが、「私の手」と表現する場合はク「テケ」と語形が変化します。この形は「私に所属している手」なので「所属形」と呼ばれます。
ちなみに。テクという形は「何の限定もない手」という単なる概念的なものなので、文法上「概念形」と言われます。これは英語のthe(定冠詞)とa(不定冠詞)の付いた名詞の関係にやや似ています。
|
セタ(犬)のつく植物名
アイヌ語の植物名にセタ(犬)の付くものが多くあり、「似て非なる」「価値がない」という意味があります。日本語にもイヌの名称が付く植物(イヌワラビなど)が多く、意味もアイヌ語とほぼ同じで、両者の共通
点が見い出されます。
ちなみに、トリカブトはスルク(真正な毒)で、その毒の弱いものをセタ スルクと言います。これは犬が「人間より下の順位
」だという元の意味が忘れられて「役に立たない」という意に変化したのですが、犬にしてみれば迷惑な話です。
|
否定の言葉は前のほうに付く
アイヌ語における否定表現は、日本語と違って、否定を表わす言葉が文の前のほうに来て、たとえば「ソモ ケラマス」(ない、私・好む=私は好きではない)のように表現されます。
しかし、「私」は独立して使えず、「好む」という動詞とくっつくので、英語の“I
don't like.”という語順とも違ってきます。
もっともソモを否定の副詞ととらえて、語順は日本語とほぼ同じだとする研究者もいます。
|