■“What are you doing?”が“Wada ya doin'?”になる音則
2003.7.18(金)
A: Hello.
B: Hello, this is Mark. May I speak with Demi?
A: I'm sorry, she's out. Would you like her to call you back.
B: Yes. Could you tell her to call me back after eight?
A: Okay. I'll tell her.
上に示した会話は中学校の教科書に出ている1節で、英語の授業中、いつもどおり発音の手本をぼくが読んだところ、生徒たちから「バブ先生、きちんと読んでください」という注文が出された。
ぼくは速く読んだわけではない。むしろ、ゆっくりすぎるくらいゆっくり読んだ。ぼくは意図して単語をつなげて読んだわけではない。むしろ、意識してできるだけリンキングしないように読んだ。
ただし、would you と could you の部分は woul|d_you および coul|d_you
のようにリンキングさせて読み、like her と2カ所の tell her ではリンキングさせたうえで
her の‘h’を脱落させて li|ke_(h)er および te|ll_(h)er のように読んだ。これらの語を切り離して読むアメリカ人はおそらく誰もいないはずだ。
would you と could you については、まったく問題にならなかった。生徒たちはこの言い方をふだんどこかで耳にしているみたいで、ごく当たり前に受け取ってくれた。
一方、〔h〕音が脱落する知識はなかったようで、生徒たちが「きちんと読んでください」と指摘したのは、まさしくこの部分だった。予測していなかったわけではないけれど、予期していた以上の反応に、ぼくはやはり驚いた。
〔h〕という子音は「自然体の口のかまえから自由気ままに出てくる息の音」だから、不安定きわまりない。アメリカ人の多くは息の倹約をして、この音を脱落させることが多く、このケースがまさにそれに相当している。したがって、この種の〔h〕は発音するほうが間違いで、間違いが癖になっては将来の役に立たないので、この部分は文科省がたとえなんと言おうとぼくは一歩も譲れない。
ところで、ぼくがいつも生徒に話しかけているフレーズのひとつに“What are
you doing?”があるが、このフレーズをぼくは実際には“Wada ya doin'?”のように発音している。なぜ、そうなるのか説明しておこう。
(1) doing の語尾鼻音〔ng〕が〔n〕化するのは、そのほうが言いやすいからで、これは近年の傾向として、どんどんそちらの方向に進んでいる。イギリス英語ではとくにその傾向が強いと思う。
(2) what の〔wh〕が〔w〕化するのはアメリカ英語の特徴で、無声音の〔wh〕より有声音の〔w〕のほうが言いやすいからである。息の音を作るより、のどを鳴らすだけのほうが楽だからで、端的に言えば、アメリカ人は音の出し方が怠惰になっている。
(3) whatの〔t〕が〔d〕に変わったのは有声音化した〔w〕に一致させたからで、この音則は最も基本的な規則のひとつである。つまり、声門を瞬間的に開け閉めできるのは天才歌手か声帯模写くらいのもので、ふつうの人はその切り替えをやすやすとできない。
(4) PV法で示される〔u-e〕の音を持つ you は、発音記号で[ju:]と表記されるように、いささか長母音的な面があるが、この語があまり重要でないときは〔y〕+〔-i-〕のように子音と短母音に分解され、そのときの文字表記で
you を ya と書くことがなんとなしに決まっている。日本語で「学校へ」と書くが、この「へ」がじつは「え」の音であるのと同じようなものだ。
(5) are をはっきり発音するときは〔ar〕の音だが、弱音化すると、「母音のr」になったり、「シュワー」(弱母音)化したりして、ほとんど短母音の〔-u-〕に近くなる。
(6) けっきょく‘what are you’が‘wada ya’となるのは、この文では doin’が最も大切なキーワードだからで、そのことはボイス・プリントの長さを比べるとよくわかる。
http://www.snkkoi.com/englishmall/zine/images_vp/zine20030718.jpg
いま、ぼくが生徒たちに“Wada ya doin'?”と聞くと、彼らはすぐに“I'm waiting
for the bus.”などと答えてくるが、アメリカ人の子供と同じ耳になっていることにぼくは満足している。
日本の英語教育は、教える側による強制力ではなく、学ぶ側のニーズからでしか変わらないとぼくは思っている。だから、ぼくは生徒たちからお呼びのかかるAETになりたいと願って努力している。
(バブ・ゴーデン)
(バブ・ゴーデン)