■英語はチャンクを作って、それを並べる言葉

2006.6.3(土)

【Q】インターネットを検索していたら「屈折語」の解説として「英語に残る屈折語的性質の例」として he、his、him、see、saw、seen が示されていました。貴社のホームページでは英語を孤立語のように説明していますが、どうなんですか?

(I・D)

【A】英語は印欧語の西ゲルマン語の分派ドイツ語からの枝分かれですが、デーン語やノルマン系フランス語と交わるうちに文法構造を著しく変化させ、またラテン語の影響を強く受けたため、現代英語は古英語と似ても似つかぬ 言語に変貌しました。
 3000種とか5000種と言われる世界の言語の大半は「屈折語」「孤立語」「膠着語」のどれかに属しています。そのほか、シベリアからアメリカ大陸にかけて多く分布する「抱合語」があり、これはアイヌ語に代表される少数派です。
 ともあれ、どんな言語も単語で構成されていますが、単語には実質的な意味を担う「内容部」と文法上の役割を担う「機能部」とがあります。
 屈折語を最も代表する言語はラテン語で、イタリア語、フランス語、スペイン語はその子孫語です。屈折語は1つの単語が文法的に活用されて屈折するので、語形を見れば、人称・格・数・性・時制などの規則性が一目瞭然で、慣れればこんな便利な言語はないと言えますが、私を含めて、日本人の学習者は活用が覚えられず、とかくドロップアウトしがちです。テレビの伊・仏・西の各語の講座で確かめてください。
 孤立語は中国語に代表されます。漢字には1字ずつ「形・音・義」があり、個々に独立(孤立)しているので、単語の語形変化は起こりえません。したがって、単語自体を「内容語」と「機能語」とに分類できます。ゆえに、単語だけでは主語か目的語かがわからず、また名詞か動詞かもわかりません。孤立語は「語順」によって正確な文意をあぶり出すので、単語の並び方が重要な言語です。日本語の語順と著しく違うため、学校で漢文を習うとき、「返り点」を苦心して入れながら読んだことを誰しも思い出せるはずです。
 膠着語を代表する言語は私たちの日本語です。膠はニカワで、着はくっつけることです。日本語は実質的な意味を持つ内容単語にテニヲハと称する助詞を添えることで文法的に機能します。また、動詞や形容詞には活用変化があり、ある種の語尾を付けると動詞を名詞にできます。単語に活用はあるものの、名詞・代名詞(?)は独立しており、助詞をくっつけることで初めて文意を明確にできる言葉です。
 英語の前身のアングロ、サクソン、ジュート、フリージアの各語はドイツ語の方言とも言える純粋な屈折語でした。それゆえ、現代英語になっても、動詞や形容詞が活用変化するし、名詞は単数と複数との違いで形が変わります。明らかに屈折語の根跡を残していますが、膠着語の日本語よりも活用が少なく、ラテン語と比べると語形変化がないに等しいと言えます。さりとて多少の語形変化はあるわけだから、中国語のような孤立語とも言えません。しかし、語順方式という点では限りなく中国語的で、中国人には英語は構造的には学びやすい言語になっています。
 英語の動詞は印欧語における単語の屈折性をほとんど放棄して、助動詞にその役目を任じました。したがって、英語は would have been being とか be going to have to be などと助動詞がずらずらとつながることで微妙な表現をする言葉になりました。ラテン語話者からすれば、なんて面 倒なと思うはずです。
 ちなみに、英語の文法書の大半が助動詞を動詞の一部として解説をしていますが、その理由はラテン語の8品詞の分類法の考え方をそのまま利用しているからで、そのため日本人の英語学習者にとって助動詞の理解が困難になっています。
 現代英語はチャンク(語群)つまり句ごとの語(群)順方式だから、構造的には孤立語に近いと言えます。しかし、各チャンクには屈折語的な要素が残っているので、両者の中間的な特異な言語に育っています。言い換えれば、チャンクの使い方に通 じて、それらの並べ方を身につければ英語は使えます。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、中国、南米の非英語話者たちはそれぞれ勝手にやや不完全なチャンクを作り、適当に並べて英語を話していますが、けっこう通 用しています。そうしたピジン英語が大手を振って歩いていることを日本人は知ったほうがいいと Bob Godin は主張します。

(K・T)