■オノマトペで知る英語音(8)
2008.5.10(土)
〔qu〕は母音しだいで騒々しくもなれば静かにもなる
アルファベットの Q の名称を「キュー」と呼ぶのは間違いです。Q は〔k〕+〔u-e〕という2つの音から成るので、日本語の「拗音+長音」(キュ+ー)で発音すると、英語話者の耳には奇妙に聞こえます。言い換えれば、「アルファベットの U の前に〔k〕を添えた音」と定義できるでしょう。
Q はすなわち、文字の名前であって、音声を示すものではありません。したがって、英単語の中に‘q’の綴りが単独で登場するのは略号のときくらいで、英語の音声としては、別途に〔qu〕という綴りが準備されており、この音は〔k〕+〔w〕から成る二重子音です。語頭音はもとより、語中音も語尾音も〔qu〕の形をとります。ただし、語尾の綴りはしばしば〔-que〕の形をとります。ちなみに、queue(列)は例外です。
〔qu〕を発音するさいの口の構えは、〔w〕と言うときと同じように、まず唇を小さく丸めて、鉛筆の先がやっと入るくらい狭くします。舌は〔k〕と言うときと同じくらい後方を持ち上げ、鼻に通じる軟口蓋にくっつけて、肺から出てくる空気を口の奥に溜めます。その構えから舌を素早く下に滑らせて〔k〕の音を出したあと、間髪を入れず狭い口から〔w〕音を出します。口の形はほとんど移動させず、2つの音を出す時間的間隔が狭いので、全体的には2音よりも短い音になります。
〔qu〕自体は低くて聞こえにくい音ですが、後ろに母音が続くと、〔qu〕の存在がはっきり認識できます。quick と kick を言い比べてみると、〔qu〕の中の〔w〕の存在に気づくはずです。
英語の〔wh〕に相当する〔qu〕は、イタリア語系の言語に共通する綴りですが、〔qu〕で始まる英単語は、ほとんどラテン語に由来します。当然の帰結ですが、辞書の〔qu〕で始まる単語について言えば、英語とラテン語の見出し語は非常によく似ています。
さて、〔qu〕で始まる擬声音には、アヒルの鳴き声の「ガー」を表わす quack に代表され、これは幼児語として多くが quack-quack の形で使われます。また、飲み物を飲むときの「ガブガブ」「ゴクゴク」「グイグイ」に対応する quaff もコミック本に頻出します。〔qu〕で始まる擬声音は数多くありませんが、賑やかにして、耳にうるさい音というイメージがありますが、確かにそうなのでしょうか。
動詞の quarrel(口論する)、quibble(つべこべ言う)、quip(警句を吐く)にも騒々しさはありますが、〔qu〕の本質はむしろ、quake(揺れる)、quiver(震え慄く)、quaver(声が震える)といった「震撼さ」にあると感じられます。quake の派生語に earthquake(地震)や「神の声を聞いて震えよ」という言葉に由来する Quaker(クェーカー教徒)があります。
〔qu〕の音にはまた「静かになる」という印象もあり、quiet(静かにさせる)、quell(鎮める)、quash(鎮圧する)などの語がそれを証明しています。quit(辞める)、quite(まったく)、quench(のどの渇きを癒す)などの語も語源的にこの概念と関係あります。騒がしいはずの〔qu〕がいつしか静かな存在になりましたが、ありていに言えば、単語の音の性格は母音との関係で決まってくるわけです。
ちなみに、ラテン語の〔qu〕には「問う」ニュアンスが強く、その影響がquestion(質問)、quiz(クイズ)、quality と quantity(質量)、quote(引用する)などの英単語に濃厚に表われています。英語の中の〔qu〕はよそ者らしく、quarantine(隔離する)されるほどの quaint(風変わりな)かつ queer(奇妙な)な quirk(奇癖)の持ち主です。