■you の複数形 y'all は生きている

2005.1.7(金)

 A Happy New Year to y'all.(みなさま、新年おめでとうございます)
 年始の挨拶にかこつけて、英語の人称代名詞の二人称・複数形について考えてみたいと思います。y'all はすなわち you all の短縮形ですが、y'all はどうやら人称代名詞の二人称・複数形と見ていいようです。
 先日、メルライン・フライダ氏に「英語にはなぜ you の複数形がないのか?」と問うたところ、ぽかんとした表情になったので、重ねて「英語の人称代名詞の二人称はなにゆえに単複が同形なのか?」と質問文を訂正しました。それでもなお、メルが考え込んでいるので、「2人を指名するとき you two と言ったり、男性ばかりの場でみんなに呼びかけるさい you gentlemen と言うけど、複数形がないと、はっきり相手を限定できない欠点が英語にはあるねえ」と追い討ちをかけました。
 ややあって、メルが“That's a good question.”(いい質問だ)と答えてきたので、さらに「オランダ語やドイツ語には二人称での単複の違いはあるの?」と聞いて、彼の返事を待ちました。
 「オランダ語にもドイツ語にも二人称の複数形はありますよ。オランダ語のそれは jullie だけど、これは you all と同じ意味で、いわゆる短縮形だから y'all みたいなものかなあ。y'all はたぶんアメリカでは正式に認められていない言い方だろうが、方言のような使われ方で残っていて、地方によっては当然のように使ってますよ。
 ともかく y'all と言うべき場合に you と言ってもわかるので、しだいに単複同形になったんではないのかなあ。you と y'all の単複を使い分けている人はまだあちこちにいますよ。
 ぼくに言わせると、日本語にこそ複数の概念がないと思うのよ。「あなたたち」というときの“たち”は、おそらく近代に発見された言い方だと思うね。英語は単複の区別に厳密だから、car の複数を cars と言うけど、日本語は「車たち」とは言わないでしょう。
 「人々」とか「山々」という言い方はマレーシア語と同じ発想で、あの辺では魚のことを「イカン」と言うけど、たくさんの魚を示すときは「イカニカン」(イカンイカンがリンキングしている)と言いますよ。あれと同じでしょう。日本語には魚の複数がないので、「魚群」と言うでしょう。もっとも、英語でも fish は群れとして把えるので、単複が同形だけど、種類を示すときには fishes と複数形にするでしょう。
 言葉は人工的に製造されたものでなくて、自然発生的に使われるものだから、ルールがあるようであって、ないような不思議な面を持ってるんではないのかなあ」とメルが締めくくってくれました。
 y'all または you all は映画の中にひんぱんに出てきます。人気の高かったテレビドラマの“Friends”からすぐに捜せるだろうと見当をつけて、書き起こした脚本ノートをめくると、1分間もしないうちに見つかりました。
  Hey, you guys, y'all know my dad.(おい、みんな、君たちは俺の親父を知ってるよね)
 Joey が自分の父親を友人たちに再紹介するセリフです。もしかして友人の誰かに紹介していないかもしれないので、確認しているわけですが、みんなに呼びかけているので、y'all を使っています。ちなみに、ここでの you guys は呼びかけの言葉ですが、主語に使うこともしばしばあります。学校では you の複数形はないと教わりますが、y'all は日常会話の中に生きています。

(藤田修司よりの聞き書き)