■ラテン語に遡って英単語をらくに覚えられる『英単語マニア』
2005.9.17(土)
『英単語マニア』を10月上旬にやっと発行できる見通しがつきました。原稿の上がった時期が2月ですから、著者のメルライン・フライダさんの校閲が6カ月以上かかった計算になります。全編384ページ(194語源)ですから、1日に約2ページの校正しかできなかったわけです。
メルさんは日本語のネイティブ話者ではないから、彼自身が会話で使った言葉から書き起こした漢字をしばしば読めないことがあります。そこで、テープ起こしによって作った初校は、すべて読んであげましたが、メルさんはそのやり方に納得せず、結局すべてのページを自分自身で何度も読み直しました。
メルさんはオランダ人ですが、かなり早い段階で英語を母国語なみに扱うようになっています。学校で履修した外国語はフランス語ですから、これにも不自由しません。ラテン語とギリシア語は日本の古文と漢文みたいなものですから、ひととおりの教養として身につけています。
ドイツ語の文法はオランダ語よりかなり複雑ですが、両語の単語はよく似ているし、すこしは勉強もしているので、なんとか理解します。イタリア語とスペイン語はかじった程度ですが、ラテン語を学んでいるおかげで、カタコト程度の水準に到達しています。漢字は日本語として学習しましたが、そのついでに、ただいま中国語を勉強中です。
メルさんの現在の日常語は日本語です。話し言葉に不自由はしません。正確に理解できなかったときは、必ず「もう一回、言って」とメルさんは要求してきます。たいていの英語話者は日本語を適当に聞き流しますし、私どもが英語を聞くときもいちいち「もう一回」などと聞くことはしませんが、メルさんは生真面
目なのです。
メルさんの校閲は、とくに日本語の訳語に厳しく、辞書に出ている訳をそのまま持ち出すと、ほとんどダメを出してきました。たとえば、confide
はたいていの辞書に「秘密が守られることを信じて打ち明ける」とありますが、誰かに秘密を打ち明けるとき、第三者にもれることを覚悟しているとメルさんは言います。だから、気休めに「誰にも言わないでよ」と念押しするわけで、あえて言うなら「秘密を守ってくれることを期待しながら打ち明ける」が
confide の概念だと言います。さらに、confide の接頭辞<con->は「全」ではなく、「共」だから、with
trust であると説明します。インターネットの google で confide を見ると、たしかに「信用していたけど、裏切られた」といった例文が数多く見られます。
メルさんが使う日本語の話し言葉の水準からして、読みの面でかくも鋭い指摘をしてくるとは夢にも思っていませんでした。日本人の英語翻訳家は「読み」だけプロなみですが、メルさんの日本語力はその裏返しと言えます。しつこく訳語を追求するメルさんの姿勢に日本側スタッフは根をあげました。たとえば、medicinal
に対する訳語は「薬の」「医薬の」ではなく「薬効がある」を選べと主張します。その理由として、人体の悪い血を抜くときに利用するヒルを
a medicinal leech と言い、今日もその治療法が残っている実例を示します。なお、肩などから強制的に血を抜くコップ状のガラス容器を
an artificial leech ということも教わりましたが、なにせ384ページではそこまで細かく紹介できません。紹介できるのはメルさんの話の約5分の1程度です。
本書はハリウッド映画が理解できる程度の英単語を身につけるためのガイド本で、映画がわかれば、日常会話はお茶の子さいさいでしょう。語源の意味を深く知ることによって、派生語の意味を類推できるようにと、読者が直接メルさんの話を聞ける工夫として対話形式をとりました。
本書が大学受験生にとって福音書となることと確信します。本書は辞書ではありませんから、訳語は「選択して網羅する」方針に基づき、多くは1例しか示していません。自分で辞書を調べる余地を残すためです。本書は辞書を上手に使うための架け橋となる優れものであると自信を持って推奨します。
しかし、高校生の必携本にするため、残念ながら、社内編集で相当数のトゲが抜かれました。たとえば、紙巻きタバコ形式のマリファナの
joint は葉の分量が多くて、2枚の紙を「つなぐ」必要からその名称になったわけで、この種の解説は語源の性格をつかみやすいけれど、公序良俗上の理由から省きました。オランダでは喫茶店のような場所で簡単に大麻類を求められても、日本の法律はそれを禁止しているからです。prostitute[pro(前に)+
stitute(立っている)]は streetwalker、すなわち「売春婦」を示す法律的な言葉ですが、これらの簡明な面
白い由来も除外しました。
ともあれ、メルさんはラテン語の語源をベースに、ゲルマン語系とラテン語系の単語を比較しながら、自分の経験を参考にしながら、英単語の覚え方を指導してくれました。ちなみに、メルさんのお父さんはオランダの有名な心理学者で、お母さんはコメディ系の人気女優ですから、オランダ人で彼女を知らない人はいません。