■非英語話者はなぜ単語ごとに英語を話すのか?

2007.3.23(金)

K:この間、小千谷市の某ホテルでフロントの女性たちが外人さんに「ハブなんとか」と言った言葉がよく聞こえなかったので、「いま何と言ったの?」と聞いたら、「“Have fun.”と言ったんです」と言われて、「えっ、俺は知ってる言葉も聞き取れないのか!」と、かなりがっかりしました。

T:外人さんって、どこの国の人ですか?

K:おもにオランダ人とかドイツ人で、錦鯉の明け2歳を買い付けに来てるんだけど、彼らは4月から売り出すんで、愛好家も含めて、宿泊客の半分以上は外人さんなのよ。彼らがホテルに帰ってきたとき、フロントの女性が「ヒヤなんとか」と言うのもわからなかったけど、「“Here you are.”と言ったんです」と言われて、またまたびっくりよ。自分のヒアリングには相当がっかりしたねえ。

T:それ、両方とも日本人の発音だから聞けなかったんじゃないですか?“Have fun”での have の〔v〕と fun の〔f〕を発音するとき、上の歯で下唇をかむ口の形は両方とも同じで、しかも両音は連続するために〔v〕で唇をかんだまま、〔f〕と言ったあとに歯を離すので、けっこう難しい発音だと思います。日本人の多くは〔v〕をバ行の〔b〕で発音し、〔f〕をハ行の〔h〕で発音するので、たしかにかなり違って聞こえます。Kさんはいつも正しい口の形で練習しているから、かえってずれた発音がわからなかったのではないですか。喜ぶべきかもしれませんよ(笑)

K:しかし、外人さんはわかってたみたい。

T:そりゃあ、ホテルから出掛けるとき、たぶんいつも“Have fun!”と言われるのを知っているからですよ。帰ってきて、部屋のキイを渡されるときは必ず“Here you are.”だから、発音が少々悪くても、シチュエーションで理解できるんです。それって、バブが language expectation(予想される言語)と言っていたことです。

K:そうかあ。場面で使われる言葉が予測できないから、わからなかったのかあ!

T:母国語なら幼児時代から場面にふさわしい言葉を必要に応じて使ってきたので、意識しなくても「音声」と「文の構造」と「使用頻度の高い語句」が身についているんで、学校で教わる難しい言葉も覚えやすくなります。Kさんは海外出張がたくさんあるので、とりあえず現地で使いそうな言葉のリストを作って、それだけを練習しておけば、どんどん応用できるようになりますよ。

K:俺の場合、間に合わせ英語だけで十分なんだけどなあ。

T:当社では「用足し英語」のことを「限定英語」と言ってるじゃないですか。限定英語をしっかりやっておけば、その範囲で応用できるんです。中・高の英語の先生方だって、文部省が検定した教科書の内容を生徒に教えるだけの限定英語です。バカの壁と同じで、誰だって壁はあるんだから、さしずめ壁の前までやるしかないですね。アジア人同士だけで交流する英語だけなら、Kさんがいま中断している Simple is Best を続ければ、そのうち話せるようになりますよ。

K:アジアの人は訛りが強くて、単語ごとに区切って話すんで、単語が連続するアメリカ英語と合わないような気がするんだよね。

T:非英語話者は文字から英語を覚えるので、単語ごとに区切って話すのは当たり前でしょう。ヨーロッパの人たちだってそうですよ。英米人は英語が母国語だから、周囲の人が話す音を聞いて、耳から覚えたとおり使うんです。どんな言語も発音時に音の合理化が起こって、英語ではとくに音がつながりますが、その音則を覚えれば「難は易を兼ねる」ことになります。

K:そうか、鯉は「コイ」で、錦鯉は「ニシキ・ゴイ」になるけど、音の理屈を知らなくても日本人には当たり前なのと同じことなのか。

T:日本人のガ行はカ行の濁音で、英語の〔k〕と〔g〕は口の使い方がまったく同じで、無声音と有声音の関係で、のどを鳴らさないか鳴らすかの違いだけです。

−−延々と続く社内の昼食時の雑談より