■NOVAにはとりあえず5000人の雇用を維持してほしい

2007.6.19(火)

 NOVAが経済産業省から「一部業務停止処分」を受けた。処罰がいささか遅すぎたきらいがある。解約トラブルをはじめ、消費者のクレームが臨界点に達し、NOVAには20ばかりの法令違反があるとのことで、政府はようやく重い腰を上げた。行政側のぬるま湯な煮えきらない様子見からして、NOVA側は実質の伴わない誇大宣伝をしたくらいでは「お咎めなし」と高を括っていたふしがある。
 民間経営による英語教室への利用者の不満は、いまに始まったことではない。週刊誌には消費者の味方めいた単発記事が過去に何度か出たことがあるが、名誉棄損で訴えられるのが怖くてか、それとも素敵な見返りがあってか、執拗な追求がなされた形跡はない。
 テレビ局もまた、NOVAからしっかり広告料をいただいているせいか、行政処分があったとするニュースを魔女狩り的な報道に便乗して形式的に流しているが、なぜそうした事態を招いたかという詳細な事実報告と本質的な問題は避けて通る。
 したがって、市民は常に販売勧誘者の手口を何も知らされないままに、事件はやがて沙汰やみになる。「民をして知らしむべからず」の鉄則どおり、民衆を不安にさせる事実報告などすべきでないとする社会的姿勢が貫かれている。NOVAにしても、6カ月後には何事もなかったかのように、またぞろ以前にもまして巧妙な手段で消費者の耳にささやきかけてくる。お人好しのカモは、何があったのかすら忘れている。
 とはいうものの、日本人に外国語を話したいという願望があるかぎり、売り手と買い手の需給関係は成り立つ。購買者が苦情を言いさえしなければ、門外漢がとやかく口を挟む事柄でもなく、わが身に損害の及ばない非当事者は「恙無しや」と高見の見物を決め込むしかなかろう。
 そもそも教育提供者が株式の上場会社であること自体が奇異な現象と言える。証券界では、人間の欲と欲とが絡んで、株価は実態を伴わないままに吊り上げられ、虚構のマネーが生み出される。株で儲けたいとする一定数の人間がいるかぎり、モノの創造・生産が関与しないマネーは膨張を続けるが、資本主義社会はそれを是とするので、教育を道具に株式市場で勝利しようとする輩が登場して当然だろう。
 弱者にとても厳しい行政は、よほどの不祥事を仕出かさないかぎり、勝ち組の少々のルール違反は見過ごす。国(と言っても政府を司る議員や役人たちだが)はたいてい無責任で、かつ間違いが多いことは、水俣病の認定をはじめ、最近の諸般の失態が教えてくれる。消費者が自らの被害を最小限に食い止めたければ、ブラウン管や活字などから流れてくる情報を鵜呑みにせず、残念ながら、自分の目の玉で真贋を確かめるしかない。
 巷の英語教室が取り扱う商品とは、「英語を教える」ことにほかならない。また「個人レッスン」を売り言葉にするのであれば、消費者の個々に異なる能力および到達点をかんがみて、個別に数百通りもの「カリキュラム」と「テキスト」と「インストラクター」を用意しなければならない。そして、個別レッスン用のメニューを用意できたら、それを実行できるスタッフが必要になる。
 NOVAには5000人の講師がいるそうだが、その何%が英語話者なのかは知らない。ともあれ、彼らが日本人向きの英語教授法を会得しているかどうかが要点だが、1回か2回の授業を受けただけで多量のキャンセルが出る現状からすると、不適切な内容を売りつけているとしか思えない。
 クレームが出ないケースとは、英語力があまりにも低すぎるため、自分のほうが悪いと勘違いしたり、教え方の適不適が判断できなかったり、己の愚かさが恥ずかしいとか、面倒だから泣き寝入りします、などという告白を複数の受講者から聞いたことがある。
 市中の英語教室は、とりわけ外国人講師をしっかり教育したあとで授業を受け持たさなければならない。日本人の誰もが日本語を上手に教えられないのと同様、英語が話せるからと言って英語を教える技術を持つ人は少ない。カリキュラムやテキストの不備はとりあえず棚に上げても、インストラクターの技倆不足は問題が山積する。
 昨今、テクノロジイの進歩による合理化が進んで、人間が行なう仕事量が社会全体で減っている。5000人の雇用が可能な産業はそうそうあるわけではない。教育は本質的に一対一でなされるのが理想で、非能率で金儲けのできにくい職種ゆえに、裏返せば雇用の確保には絶好の産業と言えよう。ホワイトカラーの仕事が世界的に減少している当世、「英語を話したい願望」の強い人の多い日本で働きたいとする英語話者外国人は多い。だからこそ、資金力ができたはずのNOVAのような企業は、外国人労働者に仕事を提供していただきたいと思う。
 NOVAに通えば、英語を話せるという実績が出れば、学校の英語教育にも少なからぬ影響を及ぼし、生徒は英語のできる教師を求めるようになる。今後、NOVAはとりあえず5000人の雇用を確保することが先決問題で、インストラクターには「日本人に英語を教える方法」をしっかり教育しなければならない。教育は奉仕に近い仕事だから、金儲けだけの具にしてはなるまい。
 母国語なら誰もが容易に扱えるとおり、言語は学んで得られると言うより、生活の中で身につくと考えたほうがよい。英語を安易にモノにしたいとする「欲」が働くと、必ず引っ掛かろう。外国語の習得には絶えまざる努力が必要で、英語は一朝一夕に覚えられる技術ではない。

(藤田修司)