■ドラゴン桜の英語学習法
2005.4.8(金)
東京大学の学生さんが『ドラゴン桜』という連載コミックの80・81・82限目の3話を雑誌からわざわざコピーして、当社に送ってくれました。そして、その東大生は「落ちこぼれの生徒を1年間の受験勉強で東大に現役合格させる話で、俺はこの話を信じているわけではないが、貴社の参考になればと思って……」というコメントを添えてくれました。
コミックの副題に「東大合格請負漫画」とあって、81限目のタイトルページに「ドラゴン桜流リスニング対策はきわめてシンプル!!英語で苦労してきた方々は騙されたと思って1カ月試してみてください!!」とあります。
80限目の物語は「リスニング対策のレッスン1……英語を聞くなですって?」という吹き出しで始まります。その理由が段階的にほぼ下記のように説明されています。
1、意味のわからない音を繰り返し聞いていると、知っている単語のように聞こえてくることがあるが、これは人間の脳が勝手に意味を見つけ出そうとするからである。
2、人間の耳はすべての音を聞き取れるようにできていないから、聴覚は意外といい加減で、他人の話を7割くらいしか聞いていなくても、残りは推測で補っている。
3、日本人なら日本語の意味が理解できるため、聞いていない部分を推測で補えるが、英語を聞くとき、脳には理解に必要な言語機能が用意されていないから、聞きそびれると、たちまち意味がわからなくなる。
4、理解できない英語を大量に聞いたところで、脳は休んでいる状態に等しいわけで、お経を聞くようなものでしかない。
5、英語圏に住む人たちが英語を使えるようになるのは、英語を使わざるをえないからで、聞いているからではない。
6、声に出して英語の本を読むことが大切で、とくに人のあとに続いて読む「追い読み」をすると、絶大な効果が期待できる。音読においては、読むために目を使い、話すために口を使い、自分の言ったことを聞くために耳を使い、一度に3カ所もの感覚器官を使っている。
以上の内容は脳科学の本に書かれていることでもありますが、この理論を証明する実例は身近にいくらでもあります。たとえば、長嶋一茂さんがTVドラマで剣士の役をしたとき、刀の持ち方について、「長嶋さん、それバットの持ち方じゃないんですか」と注意されたそうですが、英語と日本語の違いは、刀とバット以上の差があります。
ドラゴン桜は追い読みの方策として、「まずは僕が読む。その後に2人が真似して読む」と指示して、さっそく学習に移りますが、言語学習ではたしかに音読は欠くべからざる大切な作業と言えます。
ところが、このコミックのロールモデルはどうやら日本人のようです。コミック中「語学で一番大切なのはリズムとテンポ。……僕の後で読むことで流れるような読み方を体に染み込ませる」という吹き出しがありますが、この講師が英語話者なみの英語を話すかどうかは送っていただいた3話だけからではわかりません。
日本人の話す英語音声を真似ると、脳に間違った癖をつけることになります。脳はその間違いを正しい標準と思い込んで、結果的に間違いに照準を合わせることになって、英語話者が話す本物の英語を聞き取りづらくなります。ロールモデルが日本人であるという設定にすると、このコミックの理論的根拠が根底からくつがえされることになるかもしれず、作者はこの論理的矛盾に気づいていないのかもしれません。
英語の正しい音声を身につけたいのなら、ロールモデルは英語話者に限るべきです。近年はDVDやビデオが多量に出回っているので、ロールモデルに困ることはありません。若者言葉も、軍人言葉も、奥様言葉も、どんな地方の方言も、よりどりみどりです。
また、「追い読みでリズムが体に染み込めば文の構造がわかるようになってくる」という主張もいささか甘いようです。文構造は意味と関係するものであって、意味は常に言葉が使われる状況とつながっています。音声を文構造に結びつけるには、その間に単語理解の段階もあるし、もっと複雑なステップがあるわけで、上記の説明は短絡にすぎます。
今回は82限目の「直観的思考段階」の早期教育について触れる余裕はありませんでしたが、ドラゴン桜は全体的に「納得のいくストーリイ展開」であると高く評価したいと思います。この種のコミックの登場によって、人々が本物を知る機会を与えられるからです。このコミックの内容をしっかり理解すれば、「リスニングだけで英語が話せるようになる」という嘘を見破れるばかりか、「量×質の数値に比例して英語の獲得値が決定される」こともわかってきます。
逆上りもできない者に大車輪ができるわけない、とドラゴン桜は言いたいのでしょう。英語学習は「基礎的な音声と文型のプラクティス」あるのみです。言い換えれば、「正しい英語を癖にしてしまう」ことです。
(K・T)