■“Under Siege”『沈黙の戦艦』より

2003.3.19(水)

海軍さんが使う英語

 スティーブン・セガール主演の“Under Siege”(沈黙の戦艦)のセリフは、半分が非常に難解で、残り半分は簡単なフレーズのやりとりである。
 難しい表現はおもに海軍関係の用語から成り、ランダムハウス級の大辞典にも載ってない言葉がふんだんに出てくる。アメリカの戦争物は考証がたいへんに厳密で、この映画も海軍上層部で用いられる言い回しと下っ端の兵隊たちが使う会話が上手にブレンドされて、見事な調和をかもし出している。
 字幕訳者はたいへん苦労して訳語を選んだことであろう。徴兵制のないわが国にあっては、日本人の大半が軍属を経験していないわけで、なじみのない用語ばかりだから、これを直訳したのではチンプンカンプンになりかねないからである。
 この作品は単なるアクション物ではない。セガール自らが製作に携わっており、彼の主張するメッセージが画面 に強く表われている。俳優が製作した映画はロバート・レッドフォードの『クイズショウ』などのように、社会的メッセージを含む作品が多い。
 物語はトミー・リー・ジョーンズ扮するシージャックの親玉のストラニックスがミュージシャンに化けてミズーリ号に乗り込み、戦艦を乗っ取るシーンからいきなりクライマックスに突入する。

  Who is the hightest ranking officer in this room?(この部屋で一番偉い士官は誰ですか?)

 ストラニックスがこう呼びかけて、“Stand up, sir.”(立ってください)と促したあと、前の座席に陣取っている兵隊たちに次のセリフを言う。

  Part the waves there.

 直訳すると「そこの波を分けろ」となるが、そのあとに続く“Get out of the man's way. Put a light on him.”(その人に道を開けてあげて、ライトを当ててください)という言葉からわかるように、このセリフは「そこを開けて」という意味である。ストらニックスは少年時代に劇画ファンだったが、なんだかモーゼが紅海に向かって命じるような言葉である。

 このあと、“Now, you, sir, you are the hightest ranking officer in this room.”と言って、そのCommander(海軍中佐)をあっというまに射殺する。シージャックが開始された一瞬である。
 そして、場面はワシントンにつながる。ストラニックスと海軍のお偉方との交渉が始まるが、会議のシーンゆえに登場人物が多いうえに、軍事用語が多いので、この部分の英語が最も聞き取りにくいが、同時にこの映画の最大のヤマ場にもなっている。紹介したい言葉がわんさかあるが、版権の侵害になりかねないのでやめておこう。
 一方、簡単な英語は後半部にたんと出てくる。このシナリオライターはthe hell という言葉が大好きなようで、これを含んだセリフがぽんぽん出てくる。

  What (the hell) are you doing?
  What (the hell)'s going on?
  What (the hell)'s that?
  What (the hell)?
  Who (in the hell) is this?

 構文上 the hell は取り除くことができるので、( )に入れて示したが、the hell には「変なこと」というニュアンスがある。一番上の文は「お前、何か妙なことやってるんじゃねえか?」と訳せるが、次のように分解してみるとわかりやすくなる。

  (1) What the hell!
  (2) What are you doing?

 (1)はつまり“What a jerk!”(いやな奴だ)などと構造を同じくする感嘆文で、(2)は進行形タイプの what 系疑問文にほかならない。what が「なに?」という「驚き」を内包する言葉であることがよくわかる。
 なお、“Under Siege”の under は「傘下」「氷点下」「旗下」などの「下」と似ていて、siege は「包囲」だから、「包囲下」「包囲のもとで」「包囲されて」などと訳すほうが意味は近いが、それでは日本人にとても受けそうにない。