■“American Beauty”『アメリカン・ビューティー』より
2003.7.10(木)
当世米国高校生気質
世にも恐ろしい映画−−“American Beauty”はそんな作品である。何が恐ろしいたって……この映画がアメリカのごく平均的な中流家庭を題材にした物語だからで、「よくある話じゃん。で、それがどうしたって言うの」と見過ごしかねないからである。
おもな登場人物は8人で、そのうち3人が高校生で、この3名の立ち居振舞いに「当世米国高校生気質」が類型的に描写されている。
主人公レスターとその妻キャロラインと娘のジェーンの3人家族が住む隣家に、退役軍人とその妻と息子リッキイの3人家族が引っ越してくる。リッキイは麻薬の売人で、初対面でレスターを自分の客にしてしまう。2人は自己紹介を終えたあと、リッキイがレスターを誘う。
R : Do you party?
L : Excuse me?
R : Do you get high?
2人の気分がハイになっているところに、リッキイを探して男がやってくる。すると、リッキイが「あんたは金を払わないから、ぼくはやめたよ」とにべもなく断わる。レスターは思わず感心してしまうが、リッキイはさりげなくレスターに言う。
Anytime. Lester? If you want any more, you know where I live.
(レスターさん、もっと欲しければ、いつでもどうぞ。ぼくの居場所はわかってますから)
リッキーはレスターを自分の部屋に招き入れ、扱い商品を説明したあと、自分の呼び出し番号を教えて、現金取引きであることを告げる。
There's a card in there with my beeper number. Beep me anytime, day or night.And I only accept cash.
レスターはあきれ返って、自分がリッキイの年頃では、少しのコカインを買うために、夏休み中ハンバーガーを鉄板の上で引っくり返していた、とひとりごちる。
God. When I was your age, I flipped burgers all summer just to buy an eight-track.
やがてリッキイはジェーンと付き合うようになる。彼女は自分の父親についてリッキイにコメントする。
I need a father who's a role model, not some horny geek boy who's going
to spray his shorts whenever I bring a girlfriend home from school. What
a lame-o. Someone really should just put him out of his misery.
(私はちゃんとした父親が欲しいの。私が学校から女の友達を家に連れてきたとき、いつだってマスかいて、自分のパンツにぶっかけるような発情的な奇人はダメ。まったくがさつなの。誰かが彼を安楽死させるべきね)
リッキイが“Want me to kill him for you?”(俺に殺して欲しいの?)とたずねて、さらに“I'll
cost you.”(お金かかるよ)と言う。ジェーンは10歳のときからベビーシッターをして貯めたお金を3,000ドル持っていると返事する。
ジェーンの母親は浮気に走り、退役軍人はホモで、その妻は腑抜けになっている。レスターは娘のガールフレンドに熱を上げるといった有様で、両家族ともに3人は没交渉状態で、けだるい毎日を送っている。どの顔にも人間らしい表情がない。
物質だけが豊かになった社会の価値観のおぞましさが“American Beauty”ではごくありふれた日常性として描かれている。人間のつながりが、不倫とホモにしか見られないという異常さだが、それを当たり前と感じ、むしろ美しい映像に作り上げた恐ろしさがこの映画の芸術性を高めてしまった。レスターは最後に退役軍人から後頭部を銃で撃たれて即死するが、アメリカ社会が抱える「麻薬とセックスと銃」がさりげなく展示された恐怖映画で、アメリカの現実が淡々と語られている。
“American Beauty”は小島さんが『アメリカの高校生』の中で取り上げた唯一のアメリカ映画だが、その理由を知りたくて、何回もビデオを見て、台本を書き起こしていくうちに、ますます怖くなってしまった。
わが国の学校では、昨今いじめが横行し、中学生が幼児や同級生を殺すと事件が毎日のように報道されている。親はわが子との話し合いを避け、教師は生徒のすることに目をつむって「知らんぷり」を装っている。そんな環境下で育つ子供たちが何年かあとにわが国の
role model になる。“American Beauty”の「てんでんばらばら性」は、明日の日本の姿に間違いない。
(藤田修司)
“American Beauty”はマネー至上主義社会のなれの果てを示唆する必見の名作です。あわせて、わが国の教育界の将来を予見させてくれる『アメリカの高校生』のご一読もお願いします。