■“Mad City”『マッド・シティ』より
2003.12.19(金)
バカと野心家と怪人と
日本テレビが視聴率の数字をごまかしたり、ヤラセ番組を仕組んだりして、世間を騒がせたものの、下っ端のクビを差し出して、ガンクビを並べた幹部が形式的に頭を下げることで事件の幕を降ろした。他局もお座なりの報道をしただけで、その後はばったり何も追求もしていない。
視聴率のインチキは「今週のランキング」ベスト3に入れていいほどの大事件のはずだが、テレビ業界は仲間意識がお強いようで、ウナギの30分の1も食べないであろうコイの大量
死の報道より放送時間が短い気がする。
視聴率だけに右往左往するテレビ界をめぐる人間模様は、ドラマ的に非常に興味深い題材に思えるが、これを手掛ける脚本家を知らない。書いたとしても、テレビは扱わないだろうから、映画に持ち込むしかないが、そのじつアメリカには「メディアの虚構」をテーマにした映画が少なくない。
“Mad City”という佳作がある。地方局に左遷されたダスティン・ホフマン扮するTV記者のマックスがキー局への復帰を目指して、鵜の目・鷹の目でスクープさがしに躍起になっている。そんなおり、ジョン・トラボルタ扮する時給8ドルの警備の職をリストラされたサムが職場復帰を要求して館長に銃を突きつける。館長がサムの手を振り払ったとたん、銃が発射されて、その弾丸が黒人警備員のクリフの脇腹に当たってしまう。
成りゆき上、サムはたまたま博物館見学に訪れていた小学生たちを人質にして立てこもる。マックスがテレビの好材料とばかりに、事件の拡大を図り、サムをテレビに出演させて、彼の言い分を放送する。マックスは「野心家」だが、心根は優しい人物で、サムに同情し、情報を操作して、大衆の人気をサムに集めようとする。
テレビ局は競って取材に走り、真偽をないまぜにして、作り話をでっちあげていく。ワイドショーが重体のクリフに大金を積んでインタビューする番組を見ながら、マックスとサムが言葉を交す。
M : They're showing Cliff.<中略>
S : Hey, did Cliff … Cliff get money to do that show?
M : Sure. It's a tabloid. Big bucks. Show business.
そして、ついにキー局のメイン・キャスターである「良心の人・ケビン」が現場に現われる。ケビンがマックスに「ニューヨークに戻りたければ、サムとのインタビューを俺に譲れ」と迫る。マックスはしぶしぶいったんは条件を呑もうとするが、ケビンが“He's sunk. It's over. It's another kind of story now.”(奴の人気は落ちた。お前の話も終わった。こんどは別 の話だ)と言うのを聞いて、彼がサムを悪く扱うことに気付く。
M : He's just an innocent.<中略>
K : It's a good angle.
M : It's not an angle. It's the truth.
K : He shot a guard.
M : It was an accident. I saw it.
He didn't even know the guard was there.<中略>
K : We're all impressed with your humanity. Really.
M : Where's yours? You're going to kill him.
K : Cut this stuff out.(その話はやめろ)Get out of here.
Let's get back to business, will you? Please.
M : Business?
K : Yeah!
M : Business ......
マックスはサムに“Kevin's getting ready to hurt you.
He's going to make you look bad.”と告げる。そして、自分とつながりのある局との縁を切って、サムへのインタビューを他局のラリー・キング・ショウに売る。
一方、ケビンはマックスのスタッフが取材したテープをつなぎ合わせ、この事件は「バカ」な男が短気を起こして人を撃ち、子供を人質にした犯罪にほかならず、それをマックスがテレビ用のネタにでっちあげているかのような印象の筋書きに編集して全国ネットで流す。視聴率がぐんとはねあがると、重役連が「さすがはケビン、してやったり」とばかりにほくそ笑む。
マックスの勧めでサムは人質を解放する。マックスがサムに「俺といっしょに投降しよう」と呼びかけるが、刑務所行きを怖がるサムは自殺を選択する。サムが爆死して、その爆風でマックスは吹き飛ばされ、砕け散ったガラスの破片で顔が傷つく。
その様子をケビンが見て、マックスの部下のローリーに“Get in there. Get as
close to him as you can. Find out what he knows. Go. Go.”と言い、マックスを取材するよう指示する。ローリーはいつしか、ケビンの命令どおり赤いスーツに着替えている。
ローリーがマックスにマイクを向けて、“Max, you're gonna go exclusive on
this for me, won't you?”(あなたの話を私に独占させてよ)と頼む。さらに“It's
a bigger story now.”と言い、ひたいの血をぬぐおうとするマックスを制して、“No,
no, no. Don't wipe it. It looks good.”と言い、カメラマンに“Zoom in.”と指示する。
大勢の記者たちがマックスを取り囲んで、“What are you feeling now?”などと問いかける。マックスが“We
Kelled him! You don't understand!”と何度も叫ぶカットが、この映画のラストシーンになっている。
この we がメディアなのか、それともテレビに洗脳された大衆なのか、映画は明確な答えを示していない。そのどちらでもあろう。マックスに似た役柄を約50年前にカーク・ダグラスがビリー・ワイルダー監督の“Ace
in the Hole”で演じたことがある。“Mad City”はそのアイディアのリメイク版と言えるが、50年前にはケビンに相当する役柄はなかった。
ケビンは現代の「怪人」かもしれない。虚報を流しながら、自分だけが正義と主張する怪人キャスターは、わが国のブラウン管にもひんぱんに登場し、ローリーに似た女性キャスターが視聴者に秋波を送って、怪人をヘルプする。
私は眉にツバをつけながらも、気晴らしに見たテレビに影響されてしまう。われわれ大衆という需要があるから、テレビという供給が成り立っているわけだが、サムの“Television's
good.”という言葉は、彼の収入では妻と2人の子を養うのが精いっぱいで、サムはもっぱらテレビで放映される映画しか見ないことを示唆している。
この映画のセリフは短い慣用句が多く、20語以上のものはおそらく3〜4%しかないので、リスニングの教材として最高クラスのひとつだと思う。サムのセリフには“I
ain't got no personality.”(俺には個性なんてない)などといった文法的に奇妙なフレーズもあるが、面
白い表現もいっぱい出てくる。お見逃しなく、ぜひご覧あれ!
(藤田修司)