■音則法とPV法の境界線

2003.7.25(金)

Q:「PV法」と「音則法」はともに英語の発音訓練法だと思いますが、両者の境界線がどこにあるのか、わかりやすく説明してください。(G・T)

A:私たちが実際の英会話で必要になるのは、おもに「音則法」のほうです。「PV法」はあくまで44の英語の「単音」を学ぶためもので、喩えて言えば「筋肉トレーニング」のようなものです。
 野球選手になるには、投げて、捕って、打って、走るために必要な筋肉を鍛えておかなければならないように、英語を話すには、英語話者なみに口周辺の筋肉を自在に動かせるよう鍛練しておかなければなりません。PV法は非英語話者が英語を話すために欠かすことのできない「筋トレ」です。
 母国語の場合、生まれてすぐにトレーニングを始めるわけで、いわば「英才教育」を受けてきたために、何の苦もなく話せます。ところが、母国語の上にあとから別の言語をかぶせることは容易ではありません。なぜなら、バイリンガル者でないかぎり、言語活動のすべてが母国語のやり方を借りてなされているからです。つまり、脳にキリで深い穴を空けて、その中に母国語を埋め込んでいるので、新しい習慣はちょっとやそっとで入り込めなくなっているのです。
 口周辺の筋肉は脳からの指令を受けて随意あるいは不随意に働いています。わかりやすく言えば、ある筋肉と別の筋肉が連携を取り合って活動しているわけですが、そのときサインを出す監督が脳です。
 したがって、人が何か言いたいことを言おうとしたとき、そのメッセージを脳の言語野で作成し、それを受けて発話器官が瞬時に音声にして作り出すわけですが、その速さは少なくとも音速(?)以下ではありえず、言語を生み出す能力がいかに優れた機能であるかがうかがいしれます。端的に言うと、外国語とりわけ英語を話す能力を身につけるには大変な努力が必要になるということです。しかし、あきらめる必要はありません。ネイティブ・スピーカーなみに話すのは無理としても、言語は誰にでも話せるものだからです。
 それでは、“What do you want to do?”という文の音則を見てみましょう。じつを言うと、21世紀のアメリカ人でこの文どおりに発音する人はほとんどいないはずです。いたら化石人間です。たいてい“Wadee you wanna do?”のように発音しますが、要点を見ておきましょう。

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(1) what の〔wh〕が有声音化して〔w〕となるのは現代米語の特徴です。
(2) その結果、what の〔t〕も有声音化して〔d〕に変化します。
(3) what はCVC型、do はCV型の単語ですが、両語が合体すると、新たに|CV|CCV|という音則を作ります。英単語の語尾は大半が「子音止め」であっても、文の区切りでは「母音止め」になろうとするからです。
(4) do の母音は単語のときは長母音の〔oo〕(moon の中の母音と同じ)ですが、ここでは長母音の〔ee〕に変身しています。〔oo〕より〔ee〕のほうが前後と連結しやすいからです。
(5) you も若干変化していますが、〔u-e〕の類音として扱える範囲内です。
(6) want to が wanna となるのは、want の〔n〕と〔t〕、そして to の〔t〕と、舌を歯茎に当てる音が3回も連続するのを1回で間に合わせてしまうからで、そのとき〔t〕の有声音化が起こります。manner の重子音の〔nn〕が1つの〔n〕になるのとほぼ同じ理屈です。なお、表記上‘n' を2つ重ねて wanna としていますが、実際の音は1つしかありません。
(7) そして、to の短母音〔-oo-〕が〔-u-〕に化けています。省エネを決め込んで、口の動きをできるだけ少なくしているのです。
(8) この文では最後の do が最も大切なメッセージですから、この1語だけで3分の1強の時間を使っています。

 文に生じる音則が単音のそれと違っていることがおわかりと思います。ともあれ、音則法を理解するには、まずPV法を自家薬籠中のものとしておかなければなりません。好都合なことに、PV法がわかれば、音則法もすぐに理解できるのです。
 PV法が扱う範囲は、あくまでも44のキーサウンドとそのキーワードにおける1音節の音則までです。2音節以上の単語には連続音における別種のルールが登場するので、そちらは音則法で扱います。大まかに言うと、PV法でおもに1音節の単語の音法を身につけ、音則法で文に表われる音のルールを学びます。
 理屈がわかれば、あとは身にしみるまで、正しいやり方の繰り返し練習あるのみです。

(K.T)