■英語はPV法に始まってPV法に終わる

2006.12.2(土)

【Q】NHKの「TOKYOまちかどリスニング」という英語番組の中で“look good”は「ル・グ」のように聞こえると指導していましたが、この教え方は適切でしょうか?

(英語教師ZYX)

【A】当社でその番組を見た者は誰もいないので、同講座の11月23日放映分を見ました。冒頭に“Isn't that her job?”という文を聞いて、生徒役の手品師マギーが自分の聞き取りをカタカナで「ジョブ」と書き、双子の姉妹は job と書くシーンがありました。
 job はPV法で〔j〕〔-o-〕〔b〕と表記されるCVC型(子音+母音+子音)の3つの音から成る1音節の基本語です。CVC型の1音節の単語に出てくる母音の〔-o-〕は、top、Bob、pot、god、cock、bog、Tom、con、gong などに見られますが、この9つの例語は「閉鎖音」の〔p〕〔b〕〔t〕〔d〕〔k〕〔g〕および「鼻音」の〔m〕〔n〕〔ng〕が語尾に付いています。
 それらの語尾音はいずれものどから出てきた音声が「調音器官」に妨げられて、日本人にとって聞き取りにくい音になります。とは言っても、鼻音に関して言うと、鼻から音が出てくるので、閉鎖音より聞き取りやすいし、閉鎖音であっても、かすかにもれ出る音は聞こえます。
 なお、前記した9語の語頭音は、すべて閉鎖音ですが、直後に母音を伴うとき破裂するので、はっきり聞き取れます。閉鎖音が破裂すると、強い音になることでわかるように、語尾に登場する閉鎖音が完全に消えるわけではありません。
 双子姉妹はもちろん正解ですが、マギーさんも正しく聞き取ったようです。ところが、番組では job をカタカナで書くなら「ジョッ」のようになると指導していました。講師はマギーさんが「ジョブ」と書いたため、解説で少しとまどっている感じがしました。
 どうしてもカタカナで書きたいなら、job の母音の〔-o-〕は口を大きく開ける「ア」に近い音だから「ジャ」に聞こえるはずで、アメリカ英語の標準語は「ジョッ」になりません。人名の Bob は「ボブ」でなく、「バブ」と聞こえます。もっとも、イギリス英語の〔-o-〕は口を丸めて発音するので、日本人には「オ」に聞こえます。
 さて、質問の 'look good' ですが、この2語はPV法で〔l〕〔-oo-〕〔k〕と〔g〕〔-oo-〕〔d〕と表記します。どちらもCVC型3音の1音節の語です。真ん中の母音は日本語の「ウ」に似て、唇を小さく丸めて前に突き出して発音する〔-oo-〕ですが、後ろに閉鎖音が続く関係上、詰まる音になって、日本人には促音の「ッ」のように聞こえます。
 'look good' を「ル・グ」と表記する指導は、一種のショック療法みたいなもので、いささか奇をくらった感は否めません。ポイントは look の語尾音の〔k〕と good の語頭音の〔g〕との関係ですが、この両音は舌の位置がまったく同じで、ともに舌の後方を持ち上げて閉鎖音を作ります。すなわち〔k〕で閉鎖して、〔g〕は後ろに母音を続けるため破裂します。舌を移動させる必要がないため、前にある〔k〕が後ろの〔g〕に吸収されたかに思えますが、閉鎖と破裂の関係はきちんと守られており、〔k〕は消えていません。
 ちなみに、soccer や beggar の発音は、〔k〕や〔g〕が1つずつしかないことになっていますが、実際には閉鎖と破裂が連続して起こります。もし閉鎖音を省くと、破裂音が弱くなるので、間の抜けた音になります。英語の発音における「閉鎖→破裂」で生じるリズムは非常に重要です。
 要するに、good の〔d〕は job の〔b〕と同じ立場にあるわけで、完全に消えていません。'look good' を「ル・グ」と教えるのは、なんだかカタカナ英語を容認・助長する印象を受けます。従来のカタカナ英語より一歩前進かもしれませんが、五十歩百歩は免れず、日本人の英語が百年経っても進歩しないのは、どうやらその辺に事情があるようです。人々はテレビに影響されやすく、NHKは素晴らしい番組を放送しているがゆえに、視聴者は鵜呑みにするので、もっと注意深さが必要ではないでしょうか。英語の音声はそもそも日本語のカタカナに置き替えられません。
 米語の標準語は45音しかないので、1週間もあれば、発音の仕方は理解できますが、その習熟に英語話者の幼児が約3年間かかるくらいだから、赤ん坊より音声獲得能力の劣る大人がそれを正しく習得するにはそれ以上の時間がかかります。
 しかし、いったんPV法を会得すれば、音の連結・脱落・変更などの理屈がすべて把握できて、自分で分析できるようになります。とは申しても、英語の発音の奥行きは深く、学習者は「毎日のように発見がある」はずで、「英語はPV法に始まってPV法に終わる」と断言して憚りません。

(K・T)