■なぜ、pullがputに聞こえる

2002.4.20

 沖縄での「PV法と音則法」のセミナーが終わりました。受講者のひとりびとりが百よりもっと多い「気付き」をしたことと思います。
 いまはあまりに多かった気付きに頭が混乱しているかもしれませんが、糸のほぐれがひとつびとつほどけるように、英語の音声上のいろんな面がわかってくるはずです。
 セミナーでは日本人共通の欠点と個人的な癖とがボイス・プリント上にもろに出てきて、みなさん大変なショックを受けられたようです。しかし、自らの欠点の直し方がわかったので、練習を続ければ、怒涛のように修正されていくことをお約束します。
 最終日の3日間になって、ようやく気付かれたのが〔l〕のサウンドの性格でした。従来の常識は〔l〕と〔r〕とを対比させて両者の違いを考えることでしたが、〔l〕が〔t〕〔d〕〔n〕の親戚に相当する音であることを受講者の全員がはっきり認識されました。
 日本語には〔l〕や〔r〕に似た音として「ラ行」の音しかありませんが、ローマ字でラ行の音を「R」としたことから日本人のこれらの音に対する誤解が始まったようです。「ラ行」はじつは〔l〕のほうに似ています。
 「ラ行」は舌先を歯茎の後ろに当てたあと、すぐに舌をはじいて出す音です。〔l〕もまた舌先を歯茎の後ろに当てますが、すぐに放すのではなく、くっつけたまま舌の両サイドから音を出していくので「側音」と呼ばれています。
 〔l〕はとても粘り強い音ですが、「ラ行」は弾性のある音ですから、むしろ〔t〕や〔d〕に似ています。したがって、日本人が〔l〕と発音したつもりの音が〔t〕になりがちです。受講3日目にしてなお、下記のようになる傾向が全員にありました。

  pull it out(それを引き出す)→put it out(それを消す etc.)

 上記の語句はリンキングするので3語がくっついて1語のようになりますが、それにしても〔l〕は〔l〕でしかなく、決して〔t〕にはなりません。音を勝手に変えると、意味まで変化して何を言っているのかわけがわからなくなるからです。
 講師のバブ・ゴーデンが「ぼくたち英語話者にどう聞こえているかわかりますか?」とニヤニヤ笑うと、誰もがすぐに気付くようになっていました。そこで、次のように練習しました。
 (1) まずpullと言うとき、語末の〔-l〕で舌を放さない。
 (2) そのままitの〔-i-〕だけをリンキングさせながら発音するとき舌を放す。
 (3) 小休止のあと、itの〔-t〕にリンキングさせてoutを続ける。
 つまり、|pull_i|t_out|のように2つに分けて練習しましたが、要点は〔l〕では舌を放さず、〔t〕では舌をすぐに放すということです。すでに受講者全員の気付きが大きくなっていたので、簡単にいい音が出せるようになっていました。
 ちなみに、初学者にはふだん|pu|ll_i|t_ou|t|のように4つに分けて指導しています。そのとき、最後の〔-t〕に母音がくっつかないように注意させます。
 〔t〕〔d〕〔n〕〔l〕の4つのサウンドは、いずれも歯茎の後ろに舌先を当てて出す音ですが、前の2つが舌先を放すときに出す音で、残り2つは舌先をくっつけたまま音を出します。一方、〔r〕は舌先を口の奥に向けて反らして出す音ですから、〔l〕とは似ても似つかない音になります。
 なぜ〔l〕と〔r〕を対比させるのが私どもには理由がわかりません。
 受講者たちはもはや誰かが〔l〕のサウンドをどう出しているか見抜く力を身につけました。英語の正しい音の出し方がわかる人が多くなるにつれて、テレビで教えている英語の先生方もうかうかできなくなるでしょう。

(新日本教育図書)