■ブッシュ大統領のジョーク
2002.1.24
先日、ジョージ・ブッシュ大統領がテレビのアメフト観戦中に一瞬気を失って、床にドテンと倒れたというニュースが報じられました。原因は
pretzel という塩味のビスケットをのどに詰まらせ、息ができなくなったという間抜けな話でした。
その翌日、大統領はホワイトハウスの前でさっそく記者会見して、hit the deck
というイディオムを使って、記者たちに前日の事件(?)を説明していました。
(1)I hit the deck. (私は床を打った)
deck とは「(船の)甲板」のことです。甲板が板張りであることから、一般に板張りの床を
deck と言い、とりわけベランダのことを deck と呼んだりしますが、大統領が倒れたのはじゅうたんの上だったようです。
さて、hit の原義は「狙って打つ」ですが、狙いに当たれば「命中する」となり、さらに「ぶつける」「ぶつかる」という意味が生じ、そんなとき
hit を使って次のように言います。
(2)I fell down and hit my horehead. (私は倒れて、ひたいをぶつけた)
(3)I hit my forehead on the desk. (私は机にひたいをぶつけた)
いずれの hit も他動詞で、目的語が「自分のひたい」ですが、(3)では「机に」ぶつけたことを追加して示しています。もっとも、大統領が使った
hit は原義の「打つ」 (打撃を加える)と考えたほうがよく、次の文例と同種のものです。
(4)I hit him in the face. (私は彼の顔を殴った)
(5)I hit the ball. (私はボールを打った)
打つ道具として、(4)の‘I’は「私の手」で、(5)の‘I’は「私が手に持っているバット」です。とすると、(1)の‘I’は「私の身体」ということになり、茶化せば「私は身体で床をぶん殴った」と訳せます。なお、(4)は“I
hit his face.”とも言えます。また、戦場で敵に急襲されたとき、部隊長は次のように叫んで部下に命じます。
(6)Everybody, hit the deck.
つまり、hit the deck は get down などよりうんと強い表現で、敵から攻撃を受けたり、弾丸に当たらないよう身を伏せるときの命令用に使う熟語化された言葉なのです。大統領はイディオムとしてこの言葉を利用したわけで、記者たちが大笑いしたのもむべなるかなという一席でした。テキサス・ダンディの面目躍如たる名言でした。
ところが、次の日に大衆を目の前にしたとき、大統領はまたもや歴史に残る名セリフを口にしました。
I should have listend to my mother.
She always told me to chew my pretzel before I swallow.
(私は母の言いつけを聞くべきだった。母はいつも私に「プレッツェルを飲み込む前によくかみなさい」と言ってたよ)
満場、大爆笑となったのは言うまでもありません。大統領の母が言ったかもしれない食べ物をプレッツェルに変えているところが絶妙で、大統領のジョークのうまさに舌を巻きました。彼を一流のコメディアンと言っても褒めすぎではありません。
アメリカには土曜の夜に「サタデー・ナイト・ライブ」(Saturday Night Live)というテレビ番組があって、その中でコメディアンたちがブッシュ大統領が言いそうなセリフを口にして視聴者から笑いをとっていますが、あるいはそこから自分のことを学んでいるのでしょうか。
(ラブ・オーシュリ)