■英語の中の地名・人名の綴り
2004.9.1(水)
ぼくの名前は Robert Oechsle −−この苗字はドイツ由来の人名ですから、アメリカ人にはなかなか読めません。
英語の中の外来語表記にあっては、英語本来の綴り字の読み方と違うものが少なからずあります。英語流でない綴りは英語話者には読みずらいし、どう読むのか見当もつかない綴りもあります。とくに地名・人名には、読みにくかったり、読めない綴りも少なくありません。
数週間前、アメリカの大学に通っているぼくの娘たちが夏休みで沖縄に帰ってきて、長期滞在ビザの手続きをするため、アメリカ大使館に連れていったときのことでした。順番が来て、わが家の名前が呼ばれました。
「オ…エシュスル」
英語の綴りになれた人から見ると、Oechsle という文字の並び方は妙ちきりんだし、ローマ字式の読み方でも読めません。いつものことだから、ぼくはもう驚きもしません。
軍隊にいたとき、ぼくの名前を正しく読める上官は誰もいませんでした。ポーランド系やロシア系には20文字以上の長い名前もありますが、それらは正しく読むくせに、ぼくのたった7文字の名前を読めません。ある上官がしびれを切らして言いました。
「オーケイ、お前の名前は7文字がでたらめに並んでいるだけだから、何と呼んでも同じだろう。今後はお前をアルファベットと呼ぶことにしよう」と、思いもよらない渾名を付けられたことがあります。
Oechsle という語は、ドイツ語では「ワインの温度を計る単位語」として使われています。ドイツはビールで有名ですが、じつはワインのほうがもっと名物です。(どっちに転んでも、ドイツ人はノンベエらしい。もっとも、ロシア人にはかなわないみたい)
おいしいワイン作りを管理するための温度の単位は、摂氏でも華氏でもありません。
Oechsle です。ぼくの祖先がこの単位を発見したのです。現在もシュツットガルト付近
Pforzheim(フォーザイム)という土地で毎年9月に Oechsle 祭が行なわれています。
数年前、ドイツに旅行中のぼくの友人から「ラブ、俺がいまどこにいるか知ってるかい?フォーザイムのオーシュリ祭でワインをしこたま飲んでるんだ。お前の名前は奇妙だと思ってたが、こんなところでお前さんに会ってびっくりしてるよ。しかし、ここのワインはじつにうまいなあ」という電話がかかってきたことがあります。
オランダ人のメルラインに言わせると、Oechsle はもともとオランダ系で、ドイツに移民したんだとか。ライカというカメラ会社を興した社長が「自分の先生は
Oechsle という人で……」と言っていたという話を聞いたことがありますが、その因縁かどうか、ぼくはカメラマンになりました。ぼくの祖先は科学方面の仕事に携わる職業集団だったのでしょうか?
ぼくは Oechsle を漢字で「大首里」と書きます。沖縄が大好きなので、首里のもじりです。したがって、仮名は「ラブ・オーシュリ」と書きますが、五十音どおりに発音すると、英語の音と大きなずれが生じます。
ヨーロッパ諸言語の文字は、たいていローマ字を借りたものですが、どの言語もローマ字より音声の数のほうが多かったため、2つ以上の文字を組み合わせて自国語の音声を表わす工夫をしました。その結果、同じ綴りの読み方がドイツ語とスペイン語ではまるで違うし、オランダ語とイタリア語でも大きく異なっています。
英語は英語で他のヨーロッパ言語と一線を画す特有の綴りの法則を持っています。それぞれの言語による綴りは、その音声に基づく合理的な帰結ですから、他言語の音声を使って英語を読むことはできません。Oechsle
はドイツ流の綴りです。
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