[05]空き巣に入られた話
2002.11.25(月)
私の自宅がある場所は袋小路になっていて、5軒の家が円をなして並んでいる。この付近は大学に近いため、なかなかに閑静で、しかも便利な場所にあるので、大学教授たちが多く住んでいる。
お隣りは老婦人の独り住まいで、彼女の大きな家のキッチンに通じるドアが私の部屋の窓から見える位置にあるが、一年前にご主人を亡くされて以来、そのドアから出入りする姿を見たことがない。用心深い彼女は、裏庭に通じるドアにも、ここのドアにも、もちろん玄関のドアにも、それぞれ2つ以上の錠を付けている。
ある日、ふと窓に目をやると、お隣りの台所脇の開かずのドアから誰かが入っていくらしく、人影を目撃した。白昼のことでもあり、家の修理人なのか、それとも彼女をときどき訪ねてくる息子さんなのか、と気にも留めなかった。
ちょうどそのとき、私はミステリー小説を読んでいた。理由はわからないけれど、なんだか気になりはじめた。念のため、彼女に二度、三度と電話を入れてみるが、返事がない。不審に思ったが、向かいに住む検事に相談しようにも、彼の家族はたまたま休暇を取って留守している。
思い余って、とうとう警察に連絡した。5分も経たないうちに5〜6台のパトカーが駆けつけてきた。隣接する街の警察にも応援を頼んだらしく、見る見るうちにパトカーの数が膨れあがり、家の前のコーデサック(cul-de-sac=袋小路)がパトカーや刑事の車で埋め尽くされ、空にはヘリコプターがゆっくり旋回している。
「危険だから、家の中に引っ込んでいるように」と私に注意したあと、2人の武装警官が拳銃片手にドアを蹴って、中に突入した。まるで映画で見るシーンそのものだ。
「もし、中にいる人物が老婦人の知り合いであったり、息子さんだったりしたらどうしょう?警官や中にいる不審者が拳銃で撃たれて負傷したり、誤って殺されたらどうしょう?」と私は家の中で縮こまって、心配で心配で生きた心地がしなかった。
やがて手錠を掛けられた空巣狙いが二人の警官に挟まれて出てきた。ポケットに高価な宝石や現金をいっぱい詰め込んでいたそうだ。プロの手にかかると、錠前なんていくつあっても役に立たないらしい。
バケーションから戻ってきた向かいの検事が本物のアクション・シーンを見逃したことを悔しがった。しかし、この事件の前まで、この近所は静かだし安全と思い込んでいた私は、急に怖くなってきた。留守をするなら、お隣りよりわが家のほうがずっと多いからだ。
でも、泥棒はわが家に高額な金品がないことをどうして知っていたのだろうか。前々からこのあたりの様子をじっとうかがっていて、老婦人が乗っている高級車などから推測して、彼女をターゲットにしたのだろうか。
ともあれ、泥棒は捕まり、牢屋に放り込まれたんだから、まずはひと安心と気を休めた。
ところが、しばらくして街の裁判所からの手紙を見て私はびっくり仰天した。
「住居侵入および窃盗のかどで裁判所に出廷するはずのミスター空巣が現われなかった。ついてはミスター空巣の居所を知っていたら連絡するように」とのこと。
2〜3カ月後、その泥棒はまたもや別の場所でコソ泥に入って捕まり、こんどは確実に牢屋に押し込められた。向かいの検事からその経緯を聞くまで私は心配のしどおしだった。